今、アートはビジネスパーソンにちょっとしたブームのようです。「アートを今の自分に仕事に役立てたい」、「話題のアートシンキングについて学びたい」そんな声を、日常の雑談レベルでお聞きすることが多くなりました。
弊社では一昨年(2018年)より、アートに関わる講演やセミナーを色々な形で提供してきています。(例えば「丸の内プラチナ大学アートフルライフデザインコース with/エコッツエリア協会」、「青黒塾 with/日経BP社」、「アートのセンスで事業を磨く with/スタートアップハブ東京 等々) そこで得られた参加者のフィードバックから、アートを学びたい、特に仕事に役立てたいと思っている方が、事前に知っておいた方が良いのでは思う事が、浮かんできました。 参考になる方もいらっしゃればと、いくつかコメントしてみますね。
仕事を突き詰めてみることで、初めて役立つかどうかが分かる
「一体アートの何が仕事に役立つんですか?」という質問を受けることがよくあります。この質問に答えるのが実はかなり難しいのです。ご質問された方の仕事の中身は勿論、仕事に対して今どのように感じているのか、これからどうしていきたいのかを知らないと、ご本人が満足する回答にはならならいからです。だから「(アートは)仕事に役立つと思っていますが、それは本人しだいですねぇ」とお答えするのがほとんどです。これが実に受けが悪いのです。それはそうですよね。この回答では、質問をはぐらかされたとしか思えないでしょうから。
一方で、アートが実際に役立っている例は、いくらでもあります。
✓患者さんの心を和ませる目的で病院でアートを取り入れた
✓ブランドの向上のためにアートを利用している企業
✓アートミュージアムを核に地域振興に成果 …等々
アートは役立ちますよと言っても良い事例が山ほどあるわけですが、ここでそう言ってしまうと、アートの面白さ、可能性を伝えられない矛盾,もどかしさが生じてしまいます。なぜなら、アートは、送り手(≒作家)の“価値観”、“意味づけ”、“意図”を最初にまとって生まれてくるもので、役立つか役立たないかは受け手(≒鑑賞者)の後付の判断でしかないからです。
ちょっと説明がややこしくなりました。ありそうなビジネスシーンに置き換えてみましょう。
あなたが新規ビジネス開発、あるいは新商品開発を担当していて、日々頭を悩ませていたとします。ある時、突然稲妻が落ちるようなひらめきがあり、考えただけでワクワクするアイデアが浮かびました。 ブルーオーシャンに漕ぎ出すような 、これまでどこも手掛けていないものです。早速に、上長に企画をあげると、「なるほど、君のアイデアは分かった。で、どれくらいのビジネス規模にいつ頃なる? 収支はどうなりそうかな? 我が社が出す意味は一体なんだね?」と切り返されました。誰も手掛けたことのないものですから、そう簡単に答えることはできません。しょうがないので、企画を通すために、世間に既にある似たような、でも自分が最初にワクワクしたものとは全く異なるものを調査したりして、それがしかの“判断材料”を入れ込みながら、当初のアイデアを何度か練り直すことになるわけです。
アートが役に立つかどうかを聞くという事は、この上長の視点と同じという事が言いたいわけです。既存の価値基準では、新しいアイデアや意味づけを理解することができないし、場合によって、その斬新さを殺しかねないということなのです。では“生かす”ためにはどうするか。「あなた」が最初に日々頭を悩ませていたというプロセスが必要なのです。つまり自分で必死に突き詰めている時間があること。このベースがあるからこそ、自分なりの新しい“役立つ(かも)/役立たない(かも)”という判断基準が生まれてくるのです。
アートをビジネスに役立てたいと思う方は、まず自分自身がビジネスに徹底して向き合っているかを振り返ってみてください。もし、もう本当に色々と考えてみて、やってみて、かなり行き詰っちゃって…という方でしたら、アートは間違いなく何らかのヒント、アイデアをもたらせてくれる、つまりはあなたにとって役立つものになるでしょう。