絵画の世界で有名なイノベーションの一つと言えば「印象派」。一部の天才たちにより引き起こされたようにも思えますが、印象派の背景をもう少し見ていくと、彼ら彼女らは、単に時計の針を早く進めたことが分かります。
(ここまでの内容は、ビジネスに効く?アートな話① & ビジネスに効く?アートな話② をご覧ください)
ビジネスパーソンが最も知りたいことは、この時計の針を早く進めることかもしれません。そこで、印象派の様子を、マーケティング理論ではお馴染みの「PEST」になぞらえて勝手に考察してみました。
これまでの指標に当てはまらないのがイノベーション
勿論、印象派の例を従来の「PEST」にあてはめてみても実はあまり意味がありません。そこでイノベーターを分析をする新しい「PEST」を考えてみました。
P=People(人)
企業でイノベーションを起そうと思い立ったら、「変人(異端な人)」を集めて、チームにしてしまうことから始めましょう。それも既存組織上の部門にするより、「イノベーション派」として名乗らせた方が、より効果的かもしれません。
企業内でMBAホルダーがもてはやされた後、「変わった人」「使いにくい人」としてフェードアウトしていった例がありますが、これは既存部門に配置したがための当然の帰結です。普通の人の集団に、イノベーターを天才として認識させることはほぼ不可能です。それより、何だかわからない連中として目立たせた方が、その存在を認めさせる可能性は、何倍も高まります。「印象派」として集団として目立ったからこそ、その存在が世間で広く認知されたのと同じことです。
E=Emotion(感情)
事業トップがこれはと思うメンバー、”次代のエース”を選抜してイノベーション推進を任せるというケースが多いと思いますが、これは止めた方が良いかもしれません。
印象派の画家たちの中に、王立アカデミーから指示を受け、「異端」の作品を描いた者は一人もいません。「今のやり方、進め方に飽きたらない」という想いを持った個人が、勝手に動けるような形にする方が、強い推進力を生むのではないでしょうか。
S=Safety(安全)
これも非常に大切です。イノベーターと呼ばれる人たちの、普通の人にはわけの分からない行動は、単に咎められない(ペナルティを与えられない)だけでなく、むしろ思う存分やらせてあげる環境を整えることが重要です。
印象派の画家たちは、何となく貧乏なイメージが浮かんでくるのですが、実はブルジュア、お金持ちの子息が多いのです。だからこそ、革新にかける時間と心の余裕が持てたと言えるでしょう。明日の生活に困る状態で、長く「異端」を続けることは、かなり難しいことなのです。
T=Trial(実践)
イノベーションのアイデアは、企画書で判断してはいけません。いや、企画書を書いている暇があってはまずいくらいです。
「こんな作品を描こうと思っているのだが…」と、画家に長々と説明してもらっても、その画家の技量や感性を推し量ることはできません。実践を重ねることで、アイデアが形となって、周囲の人間の目に触れ、絶賛であれ酷評であれ、何らかのフィードバックを得ることで、イノベーションが進んでいくわけです。
《印象、日の出》は、全体にモヤモヤとした画面の中で、くっきりとした太陽のオレンジ色が、本当に鮮やかに輝いて見えます。
本当のイノベーションとは、取るに足らないように見える一つ一つの積み重ねがしだいに形となって生まれてくるもの。先行する「変わった人たち」が、その形を眩い光として感じ、示してくれることで、一般の人間が初めて認識し、心動かされるものなのではないでしょうか。100年前に興った印象派に、ビジネスパーソンが学ぶことは多いように感じます。
…と、勝手なうんちくを語るのも、美術の楽しみ方の一つかなと。